峰山町二箇の気張るファーマー(きょうたんご米気張るファーマー通信 Vol.21)

Vol.21 二箇区月の輪田保存会(峰山町二箇)

 いざなぎ(磯砂山)や種を浸する清水戸、五穀始まるこれぞ苗代

 峰山町二箇地区には、大昔、食物の女神として知られる豊受大神が、天照大神のために稲作を試みた際、種籾を浸した場所とされる「清水戸(せいすいど)」と呼ばれる井戸がある。
 タイトルの古歌はそんないわれを歌ったものだ。

 そして、清水戸に浸した種籾を播いた田んぼが、日本の稲作発祥と伝えられる「月の輪田(つきのわでん)」だ。代々の領主は除地としてこの地を保護し、毎年身を清めて稲を作り、白米一斗三升を初穂として伊勢神宮に奉納していたそうだ。

 しかしこの由緒ある田んぼ、江戸時代には稲作が行われていたそうだが、以降は雑草が生い茂げったまま長年放置された状態であった。

 そんな中、「丹後建国1300年」となる平成25年、地区の長老たちが声を上げたことを契機として、月の輪田復活に向けた一大プロジェクトが区民の全面協力のもと動き出した。荒れた田んぼを開墾し、土壌改良を行った。栽培する品種は赤米や黒米と呼ばれる古代種。

 平成25年の6月には子どもたちが中心となって苗を手植えし、10月にはたわわに実った古代米を収穫することができた。そして同年12月には伊勢神宮に奉納を行った。

 地区の有志により結成された「二箇区月の輪田保存会」会長の野木達秋(のぎたつあき)さんは、350年前に月の輪田を管理していた野木義右衛門(のぎぎえもん)さんの8代後の子孫にあたる。

 「復活を機に多くの人が二箇地区に来られるようになった。色々なPRができてありがたい。これからも大事なことだで継続していかんなん。」と野木さんは言う。淡々と語る野木さんの言葉の裏には、伝説を復活させた子孫としての矜持が詰まっている。

 

 

月の輪田圃場

月の輪田は三日月形の約10平方メートルの小さな田んぼ

 伝説の田んぼでの米作り

 栽培する品種は赤米、黒米(モチ稲)、紫稲、ベニカンザシの4品種。隣の弥栄町で活動する芋野郷赤米保存会から種籾を譲り受け、栽培方法も学んだ。

 田植えはコシヒカリよりも遅い5月下旬から。手植えから始まって刈り取りまでほぼ手作業で行う。除草剤も使用しないため雑草処理も手作業だ。機械化が進む現代の農業にあって、昔ながらの手作業による悠久の稲作を行っている。

 収穫したお米は、毎年10月の秋祭りや地元関係者へ振る舞われるほか、地元中学校の給食としても提供され、地元の歴史とともに古代丹後の味として親しまれている。

 伝説の田んぼでとれた米は長い歴史を経て復活し、いま再び地域で愛される存在になった。

 

野木さん講義

小学生に月の輪田の説明をする野木さん。郷土教育の伝道師でもある

 二箇区のお米を全世界へ

 稲作発祥伝説は二箇地区にとって米をブランド化する上での非常に大きな強みとなっている。野木さんの目標は月の輪田だけでなく二箇地区全体の米を「三日月米」として全世界へ発信すること。少子高齢化により担い手が減少する同地区において、ブランド化によって米の販売単価を上げることで、担い手の農業離れを食い止め、持続可能な農業を目指す。

 野木さんの息子さんは地元に戻り、外部職場に勤めている。
「息子が跡継ぎになってくれれば。勤めに出ているので無理は言えないが」と将来の稲作後継者に対する密かな思いを語っていただいた。

 伝説の田んぼでの米作りは決して途切れず、これからも連綿と続いていくことだろう。
 

野木達明秋氏

伊勢神宮奉納の際にインタビューを受ける野木さん

 

(気張るファーマー通信編集部 田崎)

【参考文献】
丹後旧事記
峰山郷土史(下)

取材日:令和2年10月16日

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更新日:2021年03月26日